
退職代行は、近年になって広まってきた先進的なサービスで、実際にうまく活用されている事例は数多く存在しています。しかし退職代行というだけで、なんとなくいい印象を持たれないことも多く、気になっているものの使ってみるのには懸念がある場合も多いでしょう。そこで今回は、退職代行のサービスの実態について、詳しく解説していきます。
退職代行を頼むのは頭おかしい?世間で敬遠される理由

退職代行と聞くと、ただ「なんとなく職場で言い出しにくい」など、漠然とした理由で使っていると思われがちです。なかには「自分から話ができないなんて根気がない」など、個人的な心持ちの問題だけで、退職代行を利用しているように感じ取られてしまうこともあります。
しかし退職代行を依頼するのは、決して非常識な行為ではなく、仕事を辞めるための一種の手段です。ではなぜ、退職代行の世間的なイメージが思わしくないのか、その理由についてまずは解説していきます。
退職の旨は「直接伝えるべき」との固定観念
そもそも退職代行のサービス自体が世間的にはまだ新しく、一般に広く浸透していないものです。特に社会経験を長く積んでいる中高齢層にとっては、退職代行を利用する行為に対する理解がしにくい部分もあります。自分自身が若手だった頃には、退職代行が存在していなかった世代にしてみれば、そのサービスをあえて使う理由がわからないのも無理はありません。「わざわざお金を払ってまで頼むことなの?」と思う人もいることから、なんとなく怪しいように感じるイメージにとらえられてしまうことも考えられます。しかし退職代行は、サービスによっては幅広いトラブルにも対応でき、問題なく活用できるもの。もちろん直接伝えられたほうがいいかもしれませんが、状況次第では、必ずしもそうとは限りません。「退職するなら本人が申し出るべき」などの固定観念から、あまりいい印象を持たれないことが想定されます。
退職代行のサービスを「怪しい」と感じている
退職代行を利用する価値観を理解できないと、そのサービス提供をしている機関に対し、不信感を抱くことも考えられます。また近年では、非弁提携と呼ばれる違法行為で逮捕された退職代行サービスもあり、なかには専門業者に対する疑念を持っている場合もあるでしょう。ちなみに非弁提携とは、金銭目的で弁護士のあっせんをする行為で、紹介料金などを請求するのは違法となります。「悪質なサービスに騙されている」「そんな悪徳業者を選ぶなんて気が知れない」など、サービス自体を怪しむ見方から、実際に利用するのは疑問視されるケースも多くあります。
自ら退職を申し入れないのは「無責任」との考え方も
1人でも欠員が出てしまうと、社内の業務に大きな影響を与えるケースも珍しくありません。たとえ個人的な退職とはいえ、事業運営において重要な事態にも関わらず、本人が直接申し入れないのは無責任と捉えられてしまうこともあります。
また退職代行を利用する場合、やむを得ない事情などで、即日で仕事を辞めるパターンも見られます。業務の引き継ぎなど、欠員を埋めるための準備がされないまま退職となることもあり、人によっては「周りのことを考えていない」と感じてしまう可能性も。とはいえ従業員自身には、退職して抜けたあとの責任を取る義務はないため、退職代行を使うのは特に問題はない行為です。
退職代行を使うべき場面は?活用できるパターン例

退職代行のサービスは、ここまでに見てきたような背景から世間的なイメージが厳しい一面もあり、なんとなく疑わしく感じてしまうかもしれません。しかし退職代行は、決して悪徳なサービスではなく、状況によっては有効に活用できる正当なものです。ちなみに退職代行で、対応してもらえるサービスの具体例としては、次のようなものがあります。
- 退職する意思や届出の通知
- 保険証・社員証・各種端末・制服など、貸与品の返却手配(郵送)
- 退職日や有給消化日数の申請(本人の希望を伝達)
- 従業員本人への直接連絡の回避要請
- 退職にともなう労働条件の交渉 ※民間サービスでは不可
- 勤務先との労働関連のトラブル解決 ※民間サービスでは不可
- 退職拒否時の交渉 ※民間サービスでは不可
- 法的手段による紛争解決 ※民間サービスでは不可
なお退職代行の業者は、大きく分けて、民間企業・労働組合・弁護士法人と、運営元に応じて3つのタイプが存在します。それぞれで提供できるサービスの範囲は、次のように大きく異なります。
- 民間企業:本人に代わり、退職する旨や希望を伝えるサービスに対応
- 労働組合:退職手続きの他、労働条件の交渉にも対応
- 弁護士法人:退職手続きや労働条件の交渉、その他の法的措置全般に対応
上記にもあるように、事業主との交渉や法的手段は、民間企業が運営する退職代行サービスでは担当できない点には注意が必要です。勤務先との何かしらの交渉が必要な時には労働組合や弁護士法人、訴訟などの法的手段をともなう時には弁護士法人に依頼するのが基本です。
こうした退職代行の概要を踏まえつつ、実際にサービスを利用するのにおすすめできるパターンとして、以下のような例があります。
心身に不調をきたしている
退職を考える時点で、すでに精神疾患などを発症している時には、自ら退職を申し出るのはなかなか難しいかもしれません。自身で直接退職の旨を伝えることで、大きな心理的負荷がかかってしまい、心身に悪影響をおよぼすリスクも考えられます。うつ病・適応障害・PTSD(心的外傷後ストレス障害)・不安障害(パニック発作)など、何か疾病を患っている時には、悪化させないためにも退職代行を使うのがよいでしょう。
また明確な診断はされていないにしても、体調を崩していたり、メンタル的な不調が起きていたりする際にも、退職代行に任せることをおすすめします。仮に「退職の旨を伝えても取り合ってもらえない」などのトラブルに発展してしまうと、場合によっては精神疾患を発症したり、症状が深刻化したりする危険性もあります。例えば、「出社する時間が近づくと頭痛や胃痛がする」「会社にいると胸やけがする」「食欲不振や不眠が続いている」「理由もなく涙が出る」などの時には、退職代行の利用も検討してみましょう。
劣悪な労働環境で退職を願い出るのが難しい
パワハラ・モラハラ・セクハラなどが起きていて、職場全体の風土や雰囲気として退職願いを出すのが困難と思われる時にも、退職代行のサービスを使うのが無難です。明確にハラスメントとみなされないにしても、威圧的・攻撃的な空気感があると、なかなか退職したい旨を言い出せないことも考えられます。例えば「常に上司が高圧的で話を持ちかけられない」「自分の考えを伝えようとすると遮られる」など、自分自身が萎縮してしまう際にも、退職代行のサービスが活用できます。
また悪質なブラック企業のように大きな問題のある組織では、「辞めたらどうなるかわかっているな」など、退職を申し出る前から脅迫じみた弾圧をしているケースも考えられます。このように従業員個人の退職に対して、強いプレッシャーを与えられている場合にも、間接的に仕事を辞められる退職代行を使うのがおすすめです。さらにパワハラなどのハラスメント被害により、職場を離れるパターンでは、退職代行とあわせて慰謝料を請求できる可能性もあります。弁護士法人が運営する退職代行であれば、なかにはハラスメント被害にともなう法的手段の相談をできることもあるので、状況次第で検討してみるとよいでしょう。
勤務先からの引き留めに遭っている
すでに退職したい旨を相談しているにも関わらず、なかなか対応してもらえないパターンでも、退職代行を活用するのがおすすめです。特に労働組合や弁護士法人が運営する退職代行であれば、勤務先との交渉を任せることができるため、本人に代わって職場を離れられるようにかけ合ってもらうのも可能です。
また「辞められると困る」「少し待ってほしい」などの言葉での引き留めだけでなく、退職させないための強行手段を取られる時には、違法とみなされる場合も。例えば、「自宅まで押しかけられる」「話を聞くまで居座られる」「退職届が受理されない」などのケースは、個人の権利を侵害する違反行為とされる可能性も考えられます。こうした強制的な退職拒否を受けている際にも、自身で直接退職を申し出るだけでは対処が難しいため、退職代行を依頼するのが無難です。退職拒否を強要するような違反行為が見られるのであれば、弁護士法人による退職代行サービスを使うことで、法律的な根拠から適切な措置をしてもらうことができます。
労働条件に関わるトラブルを抱えている
職場を離れるにあたり、賃金未払いや有給休暇の未消化など、労働条件に関するトラブルをともなう時にも退職代行のサービスを使うのがおすすめです。仮に自ら退職を申し出はしているものの、雇用契約上などの問題が起きている際には、専門家に対処してもらうのが一番の近道。労働組合や弁護士法人による退職代行サービスであれば、労働基準法などにもとづく交渉に対応してもらうことが可能です。例えば、「残業代の未払いがある」「退職を理由に減給される」「有給休暇が残ったまま辞めさせられそう」などの場合には、退職代行を通じて紛争解決をする方法もあります。こうしたパターンでは、退職する従業員に対する嫌がらせ目的があるケースも多いため、自身で直接請求してもなかなか取り合ってもらいにくいことも。そこで労働組合や弁護士法人が運営する退職代行に任せることで、正当に権利を主張して、正しい措置を求めることができます。
退職代行の利用時に注意したいトラブル事例

たとえ退職代行を使ったとしても、場合によっては思わぬ事態が起きてしまったり、かえってトラブルに巻き込まれたりする可能性も少なからず想定されます。もちろん状況に合わせて、より適切なサービスの選び方や対処をしておくことで、効果的に活用できるサービスでもあります。そこで退職代行を利用するにあたり、気を付けておきたい事例を取り上げつつ、トラブルを防ぐために注意したいポイントも解説していきます。
勤務先から直接連絡が来てしまうことがある
間接的に退職を申し出るために、外部の代行サービスを利用したにも関わらず、勤務先から直接連絡が来てしまう可能性は少なくありません。特に何の前触れもなく、唐突に退職代行を使って職場を離れる際には、「本人と話がしたい」などと直談判を求められることも考えられます。
とはいえ退職代行を通じて、仕事を辞める旨を伝達したのちには、たとえ勤務先から直接連絡があっても応じる必要はなく無視していても問題ありません。仮に勤務先からの接触があって困った時には、退職代行サービスの担当者に相談してみるのも一つの方法です。
場合によっては、勤務先からの直接連絡で退職を拒否されたり、辞めさせないための脅しや無断訪問がおこなわれたりするケースも想定されます。しかしこうした行為は、いずれも法律違反とみなされるもので、勤務先による拘束力は一切ありません。むしろ違法として法的手段を取ることもできます。勤務先による強制的な退職の引き留めが発生しそうであれば、法律的な措置まで対処してもらえる、弁護士法人による退職代行をあらかじめ依頼しておくとよいでしょう。
思うような条件での退職ができない
退職代行を利用するあたり、民間企業によるサービスを使う場合には、特に注意が必要。前述にもあるように、退職代行には大きく分けて3つの種類があり、そのうち比較的安価で頼みやすい傾向なのが民間企業によるサービスです。ただし民間企業がおこなう退職代行では、あくまで退職する事実や条件の要望を伝えたり、届出の提出などの手続きに対応したり、サービスの範囲が限られています。例えば以下のような行為は、労働組合または弁護士法人による退職代行でしか依頼できないため、覚えておくとよいでしょう。
- 未払いの給与や残業代、退職金の請求
- 有給休暇の消化拒否に対する折衝
- 退職日の調整
上記のように、交渉が必要となる場合には、民間企業の退職代行では対処できません。民間企業の退職代行では、本人に代わってその意思を伝達するサービスのため、トラブルになる可能性がある時には向かない部分もあります。もし勤務先と何かしら揉めそうな様子があるなら、多少は費用がかかったとしても、労働組合や弁護士法人が運営する退職代行を使うのが無難でしょう。
退職にともなう必要書類の受け取りができない
退職代行を利用して、直接顔を合わせずに職場を離れることで、退職関連の必要な書類を入手できない可能性も考えられます。
例えば失業手当を受給するための離職票をはじめ、雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書・源泉徴収票などの重要書類は、郵送で送付してもらうことになります。そこで退職代行を使うことで、勤務先が発行を拒否して故意的に送付されないケースも。特に退職代行サービスを通じて、間接的な手段で職場を離れることに対して難色を示す事業主の場合、その従業員への不信感から適切な対処がされないこともあります。ただし従業員から発行を求められたにも関わらず、無視する行為は違法となります。
ちなみにこうした必要書類の郵送依頼は、民間企業の退職代行でも応じられるため、仕事を辞める旨を伝える時にあわせて発行してもらうように依頼しておくのがおすすめです。なお必要書類の発行希望を出しても、なかなか届かずに催促したい時には、勤務先との交渉力のある退職代行サービスでないと対応できません。このようなトラブルのリスクも防ぎたいのであれば、あらかじめ労働組合や弁護士法人による退職代行に任せるのがベストです。
懲戒解雇や損害賠償を請求される
退職代行を使うことで、場合によっては従業員を貶める目的で、懲戒解雇や損害賠償を迫られる可能性も考えられます。退職代行を利用する際には、本人からの事前の申し入れがないまま唐突に職場を離れたり、業務の引き継ぎがないままになったりするケースもあります。そうした時に準備が不十分なまま職務を放棄したとして、「退職ではなく懲戒解雇で処分する」「事業運営に損失を与えられた分は賠償してもらう」などと請求されることも。ただし退職によって欠員が出たとしても、問題なく経営できる体制にしておくのが基本であり、事業主の責任となります。従業員側には、欠員を補てんできるように対処したり、引き継ぎをしたりなどの義務はなく、懲戒解雇や損害賠償の対象にはなりません。
ちなみにこのようなトラブルに対して、法的に交渉できるのは、労働組合や弁護士法人による退職代行サービスです。もし勤務先による反撃行為を受けるリスクがありそうなら、労働組合や弁護士法人の退職代行に依頼しておくことをおすすめします。
想定よりも高額なコストが発生する場合も
各退職代行で料金形態は異なるため、どれくらいの費用でどこまで対応してもらえるのか、事前にサービス範囲を十分に把握しておくことも大切です。提示されている基本料金に加えて、サービス内容によってはオプションとして追加費用が発生するケースもあり、問い合わせ時などにあらかじめ確認しておくのが無難。例えば、勤務先との交渉や法的措置などはオプションとなる場合もあり、トラブル対応が加わることで最終的には高額な費用がかかってしまうパターンも考えられます。
また民間企業による退職代行では、法律的な対処をしてもらうことができないため、何か問題が発生した時には別途弁護士に頼る必要が出てくることも。そうなると退職代行サービスに加えて、弁護士への依頼費用もかかることになるので、二重にコストがかさんでしまう可能性もあります。予算が気になる時には、最初から弁護士法人による退職代行を活用すべきなのか、しっかりと見極めることも重要です。
悪質なサービスにより詐欺被害を受けてしまう
基本的に退職代行のサービスは、決して怪しいものではなく、正当な手段として活用できるものです。ただし退職代行に限らず、どのような業態でも存在するように、なかには悪質なサービスをおこなっているケースも少なからずあります。なお退職代行における悪徳業者のパターンとして、次のような例も見られます。
- 格安価格を提示して契約しておきながら、サービス後になって追加料金を請求する
- 退職代行の依頼費用を支払ったあとで、連絡が取れなくなる(逃げられる)
- 契約前の問い合わせの時点で料金を請求される
- 民間企業にも関わらず法的措置に対応している(非弁行為)
上記のような退職代行を使用しないためにも、問い合わせをする前段階で、適切なサービスなのか十分に確認しておくことも欠かせません。サービスサイトなどで公開されている今までの対応実績・事例をはじめ、インターネットやSNSでの口コミといった評判もしっかりと調べたうえで相談してみるのが無難です。もしくはあまりに料金が安すぎるのも、詐欺の可能性が考えられるため、少しでも不審に感じる部分があるなら避けたほうがよいでしょう。
まとめ
退職代行は近年で登場したサービスでもあり、なんとなく懐疑的な見方をされてしまう部分があり、利用しにくいと感じてしまうかもしれません。しかし退職代行のサービスは、実際には数多く存在しており、だんだんと世間的にも浸透してきているものです。なかには労働組合や弁護士法人がおこなっている退職代行もあり、労働基準法に関わるトラブルなどにも対応してもらうことが可能。「退職を申し出るのが気まずい」といった、個人のストレス感を軽減するだけでなく、事業者との間に発生している問題解決にも役立つサービスでもあります。
もちろん自分自身で円満に退職できそうであれば、自ら直接的に勤務先に相談して職場を離れるに越したことはありません。しかし状況次第では難しいこともあり、なかなか仕事を辞められずに大きな負担を抱えてしまうなら、退職代行のサービスを使ってみるのもいい方法です。仕事を辞めたいと考えていても、思うように動き出せない時には、本記事も参考に退職代行の活用を検討してみましょう。