有給休暇は、きちんと給料が発生しつつも休みが取れる便利な制度ですが、なかにはうまく活用できていないケースも見られます。特に「会社から取らせてもらえない」など、従業員の希望どおりに有給休暇が使えない場合には要注意。有給休暇は、法的に労働者に与えられている権利であり、会社側から付与を拒否したり制限したりするのはルール違反です。そこで今回は、有給休暇が取れない時の違法事例をはじめ、問題解決に向けた手段や相談先について解説していきます。
有給休暇を取得させないのは原則的には違法
入社から6ヶ月経過していて、かつ所定労働日数の8割以上で勤務できていれば、基本的にはどの従業員にも有給休暇が付与されるのが法律上のルールです。年間の所定労働日数が48日以上になれば、有給休暇の日数には違いがあるものの、たとえ出勤数が少なくても付与されます。もし有給休暇が取れずに、次のような事例に当てはまるのであれば、法律違反と考えられます。以下のようなパターンは、会社側に問題があるので注意しましょう。
例1:就業規則で有給休暇がないルールになっている
先ほども出てきたように、会社から従業員に対して有給休暇を与えるのは、労働基準法で定める義務とされています。そもそも有給休暇がない会社は存在しないはずですし、社内で制度自体を運用していないのは違法。法律上で、例えば「有給休暇は与えない」など、社内独自のルールを設けることはできない決まりになっています。仮に「希望シフト制のため、普段から休日設定の融通が利く」などの場合でも、それとは別に有給休暇を認める必要があり、会社側で拒否するのは法律違反となります。
例2:必ず休む理由を提示しないと取得できない
取得理由を提示させること自体は違法ではないものの、従業員側には基本的に伝える義務はありません。いかなる理由であっても、決まった付与範囲内であれば、有給休暇は自由に取得できるのが法律上のルールです。たとえ社内のルールで「取得理由は提示しなければならない」していても、従業員がそれを拒否して有給休暇を取ることは、会社側としては認める必要があります。「取得理由を示さないから取らせない」など、何かしら制限を設けて有給休暇を与えないのも違法となります。
例3:有給休暇を使える範囲が限定されている
前述にもあるように、取得理由によって拒否するなど、有給休暇の取得を会社側で制限するのは違法です。例えば「体調不良時のみ」「葬式などの慶弔休暇にしか使えない」など、有給休暇が取れる範囲を決めることも基本的にはできません。いずれにしても、従業員の希望どおりに、有給休暇を取得できないのは原則違法となります。
例4:「人手が足りない」など繁忙のために拒否される
たとえ忙しいからといっても、従業員の有給休暇を拒否するのは原則違法です。先ほどからも出てきているように、どのような理由であっても、従業員からの希望があれば有給休暇を取らせる義務があります。
ただし会社側にはやむを得ない状況で、「事業の正常な運営を妨げる」と判断できるケースに限り、有給休暇の取得のタイミングを変えてもらう権利も認められています(時季変更権)。こうした際には、会社側と従業員側の双方合意のうえで、別の日に代わりの有給休暇を取ることになる場合もあるので覚えておきましょう。とはいえ、あくまで有給休暇の取得日が移るだけで、希望すれば他の日に取得できることには変わりありません。
ちなみに退職前に有給休暇を消化する時など、そもそも代わりの取得日を設定できない時には、この時期変更権は行使されないことになります。
例5:有給休暇を取得させない代わりに買い取りを要求される
一部例外はあるものの、会社側の独断で、有給休暇の買い取りをするのも違法とされています。例えば「休んでもらうのは難しいから買い取りたい」と要求するのは、従業員側が納得していても、法定には認められないのが原則です。
ただし以下のように有給休暇が残っている場合に限っては、買い取りが認められるケースもあります。
・退職日までに消化できずに残ってしまった場合
・時効消滅した有給がある場合(有給休暇は付与から2年で消滅)
・労働基準法による法定日数を超えて付与している有給休暇が残っている場合
とはいえ上記はあくまで例外で、基本的に有給休暇の買い取りの強制などは、法律上のルールでは不可とされています。
有給休暇が取れない時の相談先や解決策は?
有給休暇を自由に取ることは労働者としての大切な権利であり、なおかついつまでも取得できないのは、いざという時に困ってしまう可能性もあります。どうしても外せない事情や大事な予定がある時など、問題なく有給休暇を活用できるようにしておくためにも、次のような相談方法や解決手段を考えておきましょう。
上司に相談してみる
まずは、「今まで有給休暇を申請したことがないし、周りでもあまり取っていないから使いづらい」などの場合、大前提として社内で直接相談するのが無難です。単純に自分のなかでの認識として、有給休暇が取れないと感じているだけで、本来はきちんと希望を出せば取得できる可能性も考えられます。業務の割り振りや人員などの調整のためにも、有給休暇を取りたいタイミングが決まったら、なるべく早めに相談してみるのがおすすめ。思ったよりも、すんなり希望どおりに有給休暇が取れるケースもあるため、一度話を通してみることも検討してみましょう。
人事や労務などの担当部署や社内の専門窓口に相談する
例えば直属の上司などに拒否されて、有給休暇が取れない場合には、社内の各種管理部門に相談してみる方法もあります。人事や労務などの担当部署や、社内のコンプライアンス部門といった専門窓口に相談してみることで、上司への指導をはじめとした対処をしてもらえる可能性も考えられます。また社内の管理部門からの通達が入ることで、会社全体として、有給休暇が取りやすい風潮に改善されるケースも。会社側による拒否など、法令違反が考えられる場合には、まず社内の管理部門にかけ合ってみるのがベストです。
労基の相談窓口を活用する
なかなか社内で解決の糸口が見つからない場合には、労働基準監督署や各地域にある労働局まで相談してみる方法もあります。
労働基準監督署や各地域の労働局には、「総合労働相談コーナー」や「労働条件相談ほっとライン」をはじめとした専門窓口があり、さまざまな労働問題について相談できます。また実際に有給休暇の取得を拒否されて、違法性が高いと判断されたら、会社側への行政指導や是正勧告などの対応をしてもらえる可能性もあります。
なお違法性を判断してもらうには、その証拠を集めておくことも必要。例えば、有給休暇の取得申請書、残日数・取得ルールなどがわかる資料、上司などとのやり取りを残したボイスメモといった記録を取っておくのがベストです。
ちなみに相談者の名前は出さないように配慮してもらえるものの、場合によっては、誰が報告したのか発覚してしまうことも想定されます。基本的に相談者の情報が漏れることは考えにくいですが、社内の状況次第では、誰かわかってしまうリスクもある部分には十分留意しておきましょう。
弁護士に相談する
会社側から故意的に有給休暇を取らせてもらえないのは違法なので、法律の専門家である、弁護士に頼ってみるのも一つの方法です。解決方法のアドバイスをもらえたり、場合によっては代理人として会社に交渉してもらえたりもできます。どうしても困っている場合には、弁護士に相談して、プロによって問題を解消してもらう手段も考えられます。
転職する
そもそも有給休暇が取得できないほど、社内の労働条件や待遇などが思わしくない場合には、新たな職場を見つけて環境から変えてしまう方法もあります。また転職が決まって、有給休暇が残っている場合には、退職日まで消化期間にしてゆっくり休むのも一つの手です。現職の企業風土や職場環境に問題がありそうなら、心機一転して転職を検討してみるのもよいでしょう。
まとめ
有給休暇はやむを得ない事情で休む時だけでなく、リフレッシュしたり旅行したりなど、気分転換や余暇を満喫するためにも活用できる制度です。有給休暇を使って心身を休めることも、仕事で高いパフォーマンスを発揮するにも重要。ただ社内が忙しそうだったり、なかなか自分の業務が片付かなかったりすると、有給休暇が取りづらいかもしれませんが、柔軟に取得できないのは何か問題がある可能性も考えられます。有給休暇が取れないと、日々の活躍に影響してしまうケースもあるので、なるべく解決に向けて動くことを検討してみましょう。今自分の置かれている状況を見直しつつ、本記事も参考に、有給休暇が取りやすくなる対策を考えてみることをおすすめします。