一般社員に比べて、経営層により近いポジションで活躍する管理職の採用は、企業側としての判断も慎重になりやすいもの。各企業の管理職は、今後の経営方針や事業戦略に深く関わる中心的な存在だからこそ、さまざまな視点から自社に適しているのか十分な見極めが必要です。もちろん志望する企業の求めている実力があれば、管理職として採用されるチャンスは大いにあります。ただし入社後にどう本領発揮ができるのか、明確なイメージを提示しなければ、なかなか採用にはつながらない難しさも。そこで今回は、管理職の転職に注目して、採用の難易度が高くなりやすい原因や成功に向けたコツなどをご紹介します。
管理職の転職が難しく感じてしまう背景
企業の中枢を担う幹部だからこそ、管理職の採用では、今後の事業展開やコスト面などに対する影響が大きくなりやすい一面があります。こうした点から企業側としても採用に向けた見極めが難しく、一般社員に比べると、管理職の転職は難易度が高くなりやすいのも事実です。ではまず、管理職の転職が難しくなりやすい理由から整理してみましょう。
管理職のポジションや求人自体が少ない
管理職は、企業としての成果やビジョンなどに向けて、組織全体を同じ方向性に動かすためのマネジメントを担うポジションです。組織をコントロールする中心人物でもあり、リーダーとしての能力や実力などを備えた人材に任せるべき限られたポジションだからこそ、そもそも役職としての母数が少ない一面も。一般社員に比べて、管理職に配置される人数は当然ながら少なくなるため、求人数も決して多くはありません。また新規採用ではなく、もし各企業で管理職の欠員が出たら、社内から引き上げるケースも。新たに採用するにしても、管理職のような重要ポジションでは慎重な見極めが必要となる点から、非公開求人として応募の時点から人材を限定する場合も見られます。さらに管理職の採用では、ヘッドハンティングで人材を確保するパターンもあり、通常の転職サイトなどでは求人自体を見つけにくい部分もあります。
求められる実績や能力の水準が高い
組織においては、メンバー個人が持つスキルや考え方はそれぞれで異なりますが、全員を取りまとめて同じゴールを目指せるように導くのが管理職のミッションでもあります。例えば各案件の遂行に向けた、業務分担や個々の目標設定などでは、現場レベルの確かなノウハウが必要。さらに組織全体での士気を高めたり、チームワークを生み出したりなど、各メンバーをけん引していくためのリーダーシップも欠かせません。その他にも、現状の課題を見つけて改善を進めたり、個々に応じた教育をしたりなど、管理職に求められるマネジメント力は多岐にわたります。管理職の採用にあたっては、組織を統制する存在として、より水準の高い実績や能力を持つ人材でないと評価されにくいのが難しい部分ともいえるでしょう。
個人の価値観やビジョンなどのマッチングレベルの高さが求められる
管理職には、企業としての戦略をもとに、現場で達成すべきタスクや目標などに落とし込む役割もあります。そこで管理職が企業全体の考え方や姿勢を深く理解していないと、組織として本来目指すべき方向性から外れてしまい、思うような成果につながらない可能性も。各社の理念や方針にしっかりと共感し、なおかつその社風に合致した人材でないと、企業の求めるような的確なマネジメントが実行されないリスクが想定されます。そのため管理職の採用では、企業風土とのマッチングにおいても厳正な評価がされやすく、より高いレベルで適合する人材でないと入社が決まりにくい一面もあります。
各企業が管理職の採用をしている場合のパターン例
管理職の人員配置では、社内で経験を積んだ中堅以上の社員が選ばれる場合も多くありますが、さまざまな理由から社外の新たな人材を確保する例も見られます。では管理職の新規採用をおこなうパターンとして、よくあるケースも見ていきましょう。
マネージャークラスの中堅人材がまだ育っていない
例えばまだ設立からの年数が浅い企業では、経営層は揃っていても、各部門やチーム単位のマネジメントを担う人材が不足している例も少なくありません。そしてだんだんと現場の人員が増えていくと、経営層だけでは組織を管理するのが難しくなってくるケースもよくあります。そこで組織の運営をスムーズにするために、経営層と現場の中間管理職となる人材を外部から採用し、各部門やチームをけん引する存在を新たに立てる場合も見られます。そもそも管理職のポジションが決まっている状態から、マネジメントの即戦力として採用されるパターンです。
組織としてのパフォーマンスを向上させたい
こちらも比較的新しい企業でよく見られるパターンで、現場の若手層の育成を目的として、外部から管理職となる人材を確保する採用例もあります。例えば管理職自身も現場に出ながら、各部門やチームのメンバーのスキルなどを把握し、個々に応じたフォローをしつつ若手人材を教育するパターンです。各部門やチームの管理を担いながら、各社員の実践的なノウハウの習得をサポートする、いわば現場にも特化したスペシャリストを採用するケースも多々見られます。
新たなプロジェクトや新規事業、新設部門の立ち上げを任せたい
新たなプロジェクトや事業に踏み出したり、新設部門を設けたりする場合、それがまだ自社で対応したことのない分野であれば、外部から人材を確保して任せるケースもあります。各分野に精通した人材を外部から迎え入れることで、それぞれの立ち上げをスムーズに進めると同時に、社内に新しいノウハウなどをもたらす効果に期待できます。そしてそのまま各案件の責任者となって、管理職としてのマネジメントを担当するパターンもよく見られます。
管理職としての採用で必要とされやすいスキルや実績
組織を動かす中心的存在として、管理職には幅広い能力が求められるなかで、特に採用時で重視されやすい要素には次のような例があります。
- 人材育成、社内教育(例:業務のマニュアル化、面談によるフォロー、スキルアップの支援 など)
- 職場環境の課題設定・解決(例:作業フローの変更、新規ツールの導入、人員配置の変更 など)
- リーダーシップ(例:チーム内のイベントや交流機会の企画、目標設定 など)
- コミュニケーション(例:定期ミーティングの設定、日報対応 など)
- チームでの価値創造(例:新商品・サービスの開発、新規販路の開拓 など)
管理職として重要なのは、やはり上記にもあるような、メンバー同士の相乗効果を高めるような取り組みや働きかけです。例えば「売上○%アップ」などの数値的な成果も評価に関係しますが、なぜその結果をもたらしたのか、まずは具体的なプロセスが大切。管理職として何に力を注いで能力を磨いてきたのか、一度見直してみましょう。
管理職の転職を成功させるために注意しておきたいポイント
ここまでにも出てきたように管理職の採用では期待値が大きい分、評価が厳しくなりやすく、選考時には気を付けておきたい注意点もいくつかあります。しっかりと自分の力を発揮して活躍できる転職にするためにも、以下のようなポイントはあらかじめ押さえておきましょう。
各企業が必要としているマネージャー像を十分に把握する
前述にもあるように、管理職の新規採用に向けては、企業ごとにさまざまな目的があります。新たな管理職を迎え入れることで、企業としてどのような効果に期待しているのか、まずは十分に把握しておくことが重要。例えば「新規事業の立ち上げ」にともなう管理職の採用では、マネジメント力だけでなく、現場レベルの高い専門スキルも重視されやすいでしょう。採用の目的に応じて、人材として評価される部分は変わってきます。大前提として、志望先の企業がどのような管理職を求めているのか、事前にしっかりと調べておきましょう。
管理職として期待されている実績や能力をしっかりとアピールする
単純に「今までに管理職を経験してきた」という事実だけでは、入社後にどう活躍できる人材なのか判断できません。例えば「業務改善に取り組んで定着率が上がった」などの場合、成果そのものではなく、何をどのように対策したのか具体的なプロセスを示すことが重要です。企業側としては、何に対してどう取り組んできたのか知ることで、自社の状況に照らし合わせてどんな影響をもたらすのかイメージしやすくなります。今までに培ってきた経験がどう活かせるのか、まずは具体的に提示できるように、十分な自己分析をしておきましょう。
入社後のビジョンを明確にしておく
ただ「経験を活かして活躍したい」だけではなく、入社後に実現したいことは何なのか、あらかじめ明確にしておくことも大切です。しっかりとしたビジョンがあることで、その企業でなければならない志望動機にできるうえに、入社後の活躍のイメージが伝わりやすくなります。志望する企業の事業や組織に対して、どう貢献していきたいのか、主体的に深く経営に関わっていく姿勢を見せるのがベスト。管理職としてどのように組織を運営していきたいのか、中長期的な目標やビジョンを示すことで、先を見据えながら活躍しようとする熱意も伝わりやすくなります。
自分の希望する条件の整理・すり合わせをしておく
転職先を決める際には、当然ながら待遇や給与などの条件面も十分に確認しておく必要があります。せっかく管理職として転職ができても、場合によっては「前職のほうが好条件だった」などのように後悔してしまう可能性も。だからといって、希望の条件が多すぎても、なかなか新たな職場が見つからなくなってしまいます。自分としてどの条件は外せないのか、優先順位を考えつつ、どのような職場が理想なのか整理しておくのがベストです。
まとめ
管理職の転職は、大前提として採用枠が少ないこともあり、一般社員よりも難易度は高めになりやすい傾向にあります。求められる能力などのレベルも比較的高いため、管理職の選考においては、まずはきちんと自分がどう貢献できるのか示すことが重要。また採用の目的に応じて、必要とされる管理職の人物像も異なるため、事前に十分なリサーチをしておくことも大切です。管理職の転職をお考えの際には、ぜひ本記事も参考に、採用につながるような準備を進めていきましょう。