
消費者としての要求も多様化している近年では、商品やサービスを提供するスタッフを困らせる、カスハラの問題も深刻化しています。とはいえ相手はあくまでお客様であり、場合によっては、正式なクレームをともなうことも。カスハラの判断基準は難しく、なかなか対応がしにくいのも現実です。そこで今回は、カスハラ被害に関する法律から対処法まで、詳しく解説していきます。
2026年より事業主によるカスハラ対策が法律で義務化

そもそもカスハラとは、カスタマーハラスメント(顧客による嫌がらせ)の略語であり、一般消費者や取引先による、心身への苦痛をともなう迷惑行為を指します。
さまざまな技術が発達して便利な世の中になると同時に、昨今では消費者のニーズも複雑化し、商品やサービスの提供側に対する要求が過剰になる場面も多くなっています。また古くに広まった「お客様は神様」とのフレーズから、「代金を支払う側のほうが立場は強い」という認識を持つ顧客も一定数存在しています。
こうした背景もあって近年では、顧客自身の度を越した要望を押し付けるような、いわゆるカスハラが社会問題としても深刻化しています。そこで政府では、商品やサービスを提供する労働者を守るべく、カスハラ被害に対応するための法改正を実施。2026年10月より、労働施策総合推進法において、事業主によるカスハラ対策が義務化されます。
ちなみに各事業者に対しては、従業員のカスハラ被害を防ぐために、次のような措置をするものとしています
- カスハラに対する方針の提示(対処法や従業員保護の具体策の明確化)
- 専任担当者による相談窓口などの整備
- 加害時の事実確認や被害者配慮などの対応の徹底
- カスハラ抑止に向けた防止策の設置
- カスハラ被害の相談者保護に向けた方策の設置
原則として各企業では、上記に沿った各種カスハラ対策がおこなわれています。
カスハラに該当する具体的なパターン例

カスハラといえば、顧客による攻撃的な迷惑行為や、常軌を逸した要求などが該当します。なお厚生労働省が提示する指針では、カスハラの判断基準として、次のような条件を定めています。
【社会通念上許容される範囲を超える言動】
そもそも要求に理由がない、または商品・サービスと全く関係のない要求
契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
対応が著しく困難、または対応が不可能な要求
不当な損害賠償要求
【社会通念上許容される範囲を超える手段や態様】
身体的な攻撃(暴行、傷害など)
精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要など)
威圧的な言動
継続的、執拗な言動
拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
当然ではありますが、商品やサービスの不備に対する苦情や返品・返金要求などは、カスハラには当たりません。顧客として、今後の改善を求めるクレームなども、カスハラではなく適切な提言とされます。
では具体的に、どのような事例がカスハラとなるのか、具体的なケースやキーワードの一例をピックアップしていきます。
顧客による暴力
要求が通らないからといって暴力をふるうのは、当然ながらカスハラに該当するうえに、身体的に危害を加えるのは犯罪行為でもあります。例えばカスハラで見られる暴力として、次のようなものが挙げられます。
- 殴る、蹴る、平手打ちする
- 腕や髪などをつかむ、引っ張る
- 胸倉をつかむ、突き飛ばす
- 近くにあるものを投げる、蹴り倒す
- 大声を張り上げたり、机を叩いたりなどして威圧する
- 故意的にぶつかる
- アルコール消毒などを振りかける
上記にもあるように「殴る・蹴る」といった身体的な接触はなくても、相手に何かしら物理的な攻撃をするものは、すべて暴力とされます。たとえ事態の発端は正当な苦情やクレームであったとしても、暴力があった時点でカスハラとみなされます。
人格否定や脅し
商品やサービスに対する正当な主張の範ちゅうからは外れたような、個人を精神的に追い詰めるための暴言も、カスハラに該当します。なおカスハラに当たるようなケースとしては、次のようなものがあります。
- 「こんなに無能が店頭に立っているなんておかしい」
- 「ここまで頭が悪いなら仕事なんて辞めろ」
- 「どんな親に育てられたらそんなに性根が腐るんだ」
- 「お前みたいなクズは生きていても仕方ない」
- 「こんな会社くらい簡単につぶせる」
- 「殺す」「死ね」「これで終わりだと思うな」
- 「SNSに晒して拡散してやる」
商品やサービスに対してではなく、従業員個人の資質などを責める暴言はカスハラとみなされます。また上記にあるような、「これで終わりだと思うな」など暴力をにおわせる発言は、脅し行為として脅迫罪になる可能性もあります。ちなみに多くの人が見ているなかで、特定の個人を貶めるのも侮辱罪とみなされる場合があり、いずれも立派な犯罪ともいえます。
必要以上の言いがかりや無理難題
責任を負う必要がないような、各商品やサービスの範囲を超えた不当な要求をするのもカスハラとなります。基本的に、顧客側の主張に正当性がないのであれば、カスハラとみなされる可能性が高いでしょう。具体的には、次のような例が見られます。
- 商品の小さな傷に対し、多額の補償金を求める
- 不良品の返品交換ではなく、代金以上の賠償金を要求する
- 過度に謝罪を強要する(「土下座しろ」「社長を出せ」「家まで来い」 など)
- 事実確認ができない不具合を主張し、損害補てんを求める
- 顧客自身の過失にも関わらず責任転嫁する(マニュアルにない使い方をして壊れた など)
- 契約外、またはルール上・システム上などで対応できない要望を押し付ける
- 些細な言い間違いや言葉遣いを指摘して揚げ足を取る
上記のように、ちょっとしたことを大きな問題として過剰に追及したり、できないことを無理強いしたりするのはカスハラに該当します。
商品やサービスとは無関係の要求
商品やサービスそのものではなく、それらを扱う従業員に対して不当な要求をするのも、カスハラに該当します。具体的な例としては、次のようなケースがあります。
- 特定のスタッフに付きまとう、退勤するまで待ち伏せする
- わざと必要のないボディタッチをする(肩や手を触る など)
- 性的な発言を何度も繰り返す(「かわいい」「イケメン」「デブ」「ブス」「彼氏・彼女はいる?」「付き合いたい」 など)
- プライベートな誘いをする(「今度○○に行こうよ」「いつが空いてる?」「ご飯くらいいいでしょ」 など)
- 特定のスタッフの対応を求める(「○○ちゃんはいないの?」「□□くんじゃないといやだ」 など)
上記のような言動は、相手に不快な思いをさせたり、不利益を与えたりするセクハラにも当てはまります。もちろん性別に関わらず、いずれもカスハラとみなされる嫌がらせ行為です。
継続的または拘束的な迷惑行為
何度もしつこく繰り返されたり、要求が通るまで長時間にわたって対応を求めたりする行為も、嫌がらせの意図を持ったカスハラといえます。具体的には、次のようなケースが見られます。
- 同じような苦情の電話を何度もかける
- 何回も来店してクレームを訴える
- 無言電話を続ける
- 通話や接客を何時間にも引き延ばす
- あえて会話を長引かせて拘束する
- 思いどおりになるまで居座る(「ここから動かない」「○○ができるまで帰らない」 など)
上記のような言動は、商品やサービスに対する要望ではなく不利益を与えるための明らかな悪意があり、妨害目的としてカスハラに該当します。
カスハラに言い返すのは危険?気を付けたいデメリット
ここまでに見てきたような、理不尽なカスハラに対してはついつい言い返したくなってしまうかもしれませんが、不用意に反論するのは避けたほうが無難。かえってトラブルが大きくなる危険性もあるため、カスハラにはあくまで慎重な対応が欠かせません。なおカスハラに言い返すことで、次のような事態につながることも考えられるため注意しましょう。
逆上させて事態が悪化する可能性がある
カスハラをする背景として、「相手を言い負かして憂さ晴らししたい」「顧客の立場を利用して要求を通したい」などの心理が働いていることが多く見られます。そのためカスハラ加害者自身の想定どおりにならないと、怒りや鬱憤をさらに増幅させることになります。そこでカスハラ行為に対して言い返して、正論を突き付けることで、相手を逆上させてトラブルが大きくなってしまうケースも。たとえどれだけ正しい主張だとしても、カスハラ加害者の神経を逆なでする可能性が高いため、むやみに反論して相手を追い込むのは避けるようにしましょう。
自身が加害者にされるリスクも
カスハラ行為に対し、強い言葉で言い返してしまうことで、反対に自分自身が暴言や脅しをおこなった加害者になってしまう危険性も。たとえ不当な発言ではなかったとしても、相手にとって都合のいいように捉えられてしまい、加害者に仕立て上げられるリスクも想定されます。場合によっては、インターネットの口コミやSNSで拡散されてしまい、企業イメージを損なうなどの多大な問題にもなりかねません。特に言葉を荒げたり大きな声で主張したりなど、語気が強くなってしまうと加害性も高くなるため、そもそも反論する選択肢は考えないのが鉄則です。
人事考課や査定に悪影響となる場合もある
カスハラ加害者に言い返すことで、仮に追い払うことができたとしても、会社からの評価は下がってしまう可能性もあります。カスハラに対しては、相手に屈することなく物怖じしない姿勢が重要ではありますが、個人的な感情に任せて言い負かすのは適切な対応とはいえません。
あくまで対等な立場で、顧客として尊重するのは基本のスタンスであり、カスハラに言い返すのは組織的にはふさわしくない対処とされる場合も多くあります。その場を収めたにも関わらず、会社的にはかえって問題視されてしまうケースもあるため、自己判断でカスハラに反論するのは避けたほうが無難です。
カスハラに遭った時に覚えておきたい対処法

ではここからは、実際にカスハラの場面に遭遇してしまった時に、その現場で活用できる対処法もいくつか紹介していきます。
単独ではなく周りと連携を取って対応する
カスハラの当事者として被害を受けた場合には、まずはその現場で一人にならないようにするのが基本です。1対1のままだと、顧客という立場上から相手にとってパワーバランスが取りやすく、どんどん加害が大きくなる危険性があります。カスハラに遭った時には、その場面の証人を確保する意味でも、必ず複数名で対応するのが鉄則。できれば責任者・管理者や上司を含めて対応できると、上層部としての迅速な判断も仰ぎやすく、より適切な対処がしやすくなります。
むやみに全面的なお詫びはしない
単純に相手に合わせてお詫びするだけでは、加害者にとっては好都合でどんどん要求を過剰にさせることになるので逆効果です。また言いなりになってしまうと、ありもしない非を認めることになり、事態がさらに複雑化してしまうリスクも。例えば「謝ったということは○○の責任は取ってもらえるんだな」など、余計にできない対応を求められることにもつながります。
カスハラに遭った時には、むやみに全面的に謝罪するのではなく、こちらの正当性は曲げずに対処するのがベストです。とはいえ正論で対抗するのではなく、「時間を取らせた」「不便をかけた」など、現状として起きている事態に対するお詫びを添えるようにします。謝罪すべき部分には謝罪しつつも、落ち着いてこちらの意向を伝えるようにするのが基本です。
録音などで現場の状況を記録する
今後の対処として、例えば店舗の出入り禁止や、商品・サービスの利用停止などの措置をおこなうケースもあります。こうした対策の根拠として、カスハラ加害の証拠を提示できるように、録音などで現場の状況をきちんと記録しておくことも大切です。場合によっては、法的手段における重要なデータにもなるため、カスハラ加害の実態が詳細にわかるような記録ができるにようにしておくのがベストです。
場合によっては警察に通報
前述にも出てきたような、暴力・暴言・脅迫・拘束などは、どれも犯罪行為に当たるもの。ただのカスハラではなく、刑法が適用される可能性もあり、警察を呼んで対処してもらうのも一つの手段です。なかには「警察を呼ぶ」と伝えるだけで、態度が大きく変わるケースもあります。あまりに事態が悪化するようであれば、通報して警察に引き渡すこともできるため、現場での対処法として覚えておくとよいでしょう。
まとめ
優位に立ちやすい顧客の立場を利用したカスハラは、場合によっては犯罪にもなりかねない悪質な行為です。またカスハラといえば、一般消費者のイメージが強いかもしれませんが、企業間における取引先から被害を受ける可能性も十分にあります。相手方に正当性がない以上、決して相手の要求に応じる必要はないので、落ち着いて冷静に対処するのが基本。ただし感情的に言い返してしまうと、さらにトラブルが深刻化するリスクもあるため、反論ではなく対等な視点から対応するのも大切です。カスハラ被害に備えたい時には、ぜひ本記事も参考に、適切な措置をシミュレーションしておくことをおすすめします。