
企業の方針や担当職務などにもよりますが、本人の希望に関係なく、部署異動がおこなわれるケースもあります。場合によっては部署異動をきっかけに、自分のやりたい業務から外れてしまうことも。では実際に部署異動を命じられた時、必ずしも従う必要があるのか気になるかもしれません。そこで今回は、部署異動の拒否ができるのかどうか、詳しく解説していきます。
「部署異動」の定義は?

部署異動とは、例えば「総務部から営業部」「販売部から管理部」など、一般的には社内での所属先の部門が変わることを指します。こうした部署異動は、企業によっては配置転換と呼ぶケースもあります。また基本的に法律上の定義などはなく、なかには何かしら各社員のポジショニングが変わることに対し、「部署異動」としている企業も見られます。
ちなみに厳密には部署異動(配置転換)も含めて、担当業務・勤務先の事業所・地位・所属先などを変更する命令全般は、人事異動ともいわれます。なお人事異動の種類を簡単に見てみると、大きく分けて次のように分類されます。
- 部署異動(配置転換):今までと同じ勤務地内で所属先が変わる
- 転勤:勤務場所(所属の事業所など)が変更される
- 昇格・降格:役職や等級などが変更され、職位が向上(昇格)または後退する(降格)
- 出向:同一グループ内の関連会社に所属が変わる(雇用契約は元の勤務先と継続)
- 転籍:現状とは異なる他の関連会社などに移る(雇用契約も新たに締結)
さまざまなパターンはあるものの、なかでも部署異動とされやすいのは配置転換となります。
部署異動の拒否はできないのが原則

従業員を雇用する各企業には、正当な雇用契約のもと、社員に対して業務遂行の義務を課す労務指揮権が認められています。この労務指揮権は、部署異動を含めた配転命令も含めて適用されるため、従業員側としては拒否できないのが原則です。
また労働契約法第7条では、次のように定めています。
「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」
(出典)労働契約法
要するに、あらかじめ労働条件を明記した就業規則などがある場合、社員はその内容に従うのがルールとされています。こうした法的根拠から、企業側は労務指揮権の行使ができるため、社員側はたとえ希望しない配転命令でも従うのが基本となります。
労働条件通知書や就業規則などに明記がなければ拒否可能
原則として、社員側には、部署異動を含む配転命令に従う義務があります。一方で労働契約法では企業側に対し、労働条件明示のルールとして、あらかじめ「就業場所・業務の変更の範囲」を規定・周知することを求めています。
つまり部署異動の可能性がある場合には、企業側としては雇用契約を結ぶ時に、社員側に対して事前に知らせる必要があります。そのため、もし入社時に提示される労働条件通知書に、部署異動がある旨の記載がなければ、社員側としては拒否することが可能です。
また前述にもある労働契約法第7条では、あくまで「就業規則に定める労働条件」における、労務指揮権が認められています。したがって就業規則上に、部署異動に関する明記がないケースでも、社員側は配転命令の拒否ができます。
部署異動の指示に背くと懲戒処分となるリスクも
ここまでにも出てきたように、あらかじめ部署異動の可能性を明示されていれば、基本的に社員側は配転命令の拒否ができません。もし正当な根拠がないにも関わらず、単純に「その業務をやりたくないから」などの理由で拒否をしてしまうと、懲戒処分となってしまう可能性もあります。減給や降格、場合によって解雇などの厳しい処遇となるリスクもあるので注意しましょう。
なお部署異動は、辞令として社内で告知されて正式決定となるのが一般的ですが、なかには事前に本人などに予告する内示を出すケースも見られます。こうした内示では、まだ部署異動が確定する前段階のように思えるかもしれません。しかしたとえ内示であっても、労務指揮権による配転命令とみなされるため、拒否するのは難しいのが現実です。もちろん内示の時点で、部署異動を希望しない旨を相談してみるのも一つの方法ですが、認められない可能性は高いといえます。
部署異動を理由に退職することはできる
社員側には、日本国憲法によって職業選択の自由が認められているため、部署異動にともなって退職する行為自体は可能です。企業側としては、どのような理由であっても社員側の退職を許可する義務があり、不当に拒否したり不利益を与えたりするのは違法となります。
ただし部署異動を理由に退職されてしまうと、企業側としては想定するような組織構成や人材活用ができなくなってしまいます。そのため退職の申し出をした段階で、引き止めに遭う可能性はあります。仮に退職はできたとしても、あまり円満な結果にはならないリスクが考えられる点には注意しましょう。
部署異動を拒否できるパターンもある

部署異動は、経験値の向上による育成や、本人の適性・事業戦略に応じた組織構築など、さまざまな目的で実施されます。そうしたなかでも、社員側の事情や企業側の悪質な処遇など、正当な理由が認められる場合には拒否できるケースもあります。なお部署異動を拒否できる正当な理由としては、次のような例が挙げられます。
元々の雇用契約から範囲を超えた業務に変わる
そもそも雇用契約の段階で、特定の業務や勤務場所での就業を前提としているケースでは、法律上の労働条件明示のルールに違反しているとして拒否できます。例えば専門的な資格を条件として採用されたのであれば、その技能を活かした業務遂行を踏まえた雇用契約とみなされます。そのため採用時の職種とは完全に異なる配置転換がおこなわれた際には、社員側の拒否が認められます。
また場合によっては、本人のキャリア形成にまったく関係しないような部署異動も、雇用契約の範疇を超えるものとして拒否できる可能性があります。例えば総合職ではなく、一般的な事務職で入社したにも関わらず、一方的な会社都合で営業職への異動を命じられるパターンなど。ただしこのような業務分野が変わる部署異動の可否は、判断がかなりグレーになりやすい一面もあります。法律的な見解が必要になってくるので、どうしても納得的ない時には、まずは弁護士などの専門家に相談してみるのが無難です。
不当な動機などにより一方的に異動を強制される
特定の社員に対して、不利益を与える目的でおこなわれる部署異動は、企業側の違法性が高いとして拒否できる可能性があります。例えば、以下のようなパターンでは、不当な動機による強制的な異動と考えられます。
- 退職に追い込むために閑職へ転換させる
- 育成などの正当な意図なく、本人の能力に見合わない業務に変える
- 明らかに相応のスキルがないにも関わらず、特定の技能が求められる部門に異動させる
上記はあくまで一例ですが、本人のキャリア形成を妨げるような部署異動は、企業側による不正行為として拒否できるケースもあります。ただしこうしたハラスメントのような部署異動においても、無効性の判断には法律的な見解が必要となります。
本人の不可抗力による重大な事情がある
部署異動をしてしまうと、生活に支障が出るようなやむを得ない事情がある時にも、拒否できる可能性が考えられます。具体例としては、次のようなパターンが想定されます。
- 本人に持病や障がいがあり、その治療の妨げや悪化につながるリスクがある
- 重度な介護をしていて、部署異動で勤務条件が変わることでケアができなくなる
- 養育の必要性が高い育児(重度の持病など)にあたっていて、部署異動により勤務が困難になる
上記のような場合でも、正当な理由があるとして部署異動を拒否できることがありますが、こちらも明確な判断基準はありません。各企業の判定次第にもよるので、勤務先との十分な協議や、専門家への相談などが必要です。
減給される可能性がある
企業側には部署異動を命じる権利はあるものの、それにともない、一方的に給与を下げることは法的に認められていません。もし部署異動により、給与形態が変わるのであれば、双方の合意が必要とされます。このような双方の協議がなく、強制的に減給される場合、企業側による不当な動機として部署異動の拒否ができます。
まとめ
部署異動を指示されて、雇用契約時などにその可能性が明示されている場合、基本的に社員側は受け入れる必要があります。たとえ不本意な部署異動であっても、正当な理由がなければ、拒否できないのが原則です。とはいえ反対に、もし正当な理由があるなら、部署異動を拒否できる可能性も考えられます。どうしても納得できない部署異動を命じられた時には、本記事を参考に、企業に申し入れるか専門家に相談してみることをおすすめします。