都会の忙しい働き方に疲れてしまったり、自然にふれあえる仕事になんとなく憧れがあったりなど、「心機一転して農業をはじめてみたい」と考えることもあるかもしれません。もちろん農業に限りませんが、未経験から新たな世界に飛び込むのは、何かしらのハードルはあるもの。特に農業は、他の業種に比べて特殊な部分も多く、本当に自分にもできそうなのか不安に感じやすいでしょう。そこで今回は、未経験から農業への転職を検討する際に、知っておきたい農家の実態やメリット・デメリットを解説していきます。
少子高齢化が進む農業は未経験からチャレンジしやすい
農林水産省の調査(※1)によれば、自営農業従事者の平均年齢は69.2歳と、農家の高齢化は年々進んでいるのが現状。さらに農業をはじめる新規就農者数は、令和元年から令和5年にかけて、約1万2,000人も減少している状況です。また農業法人に雇用された人材も、令和3年から令和5年までの2年間で、2,000人程度減っており、業界全体として人手不足が進んでいます。このように少子高齢化が大きな課題となっている農業界では、次世代への承継のためにも、特に若年層の新たな人材が求められています。
農業転職後に見込める平均年収は?
農林水産省が発表するデータ(※2)によると、個人経営の農家における年間農業所得の平均額は、404.2万円(令和5年時点)。また厚生労働省の調査(※3)では、農林漁業法人雇用者の平均賃金は1ヶ月あたり26.1万円+年間賞与38.6万円で、年間総計351.8万円となります。ちなみに全業種の一般労働者の平均年収(※4)は、330.4万円(正社員のみなら348.6万円)。もちろん就業形態や経営状況により異なりますが、収入面から見てみると、一般的な仕事との大きな差はないといえるでしょう。
(※2) 農林水産省「令和5年農業経営体の経営収支」
(※3) 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」
(※4) 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」
農業へ転職する方法は大きく分けて3つ
農業に従事する形態としては、個人で経営する独立就農、農業法人に勤務する雇用就農、現農家から事業を引き継ぐ親元就農の3種類があります。
未経験からでも独立就農は不可能ではありませんが、ゼロベースから事業を立ち上げるのは、かなり難易度は高いかもしれません。初心者から農業をはじめるためには、農業学校などに通って専門ノウハウを習得してから開業するのが一般的です。また自治体によっては、就農準備校や資金援助など、新たな農業従事者をサポートするさまざまな支援制度を整えている場合もあります。
未経験からの転職で比較的無難なのは、農業法人に就職する方法です。通常の企業のように、すぐに農作業に従事できる土台がすでに用意されており、働きながら農業に必要なスキルや知識を身につけられる体制も用意されています。
なお親元就農は、後継者を求める農家から事業を承継して経営するもので、親族でない第三者でも引き継ぐことができます。もし農家として自営業をしていく道を検討しているのであれば、親元就農の選択肢があることも覚えておくとよいでしょう。
農家として就職するメリット
では実際に、未経験から新たに農家の道へ進むことで、具体的にはどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
過去の経歴や年齢に関係なくスタートしやすい
基本的に農作業は肉体労働で、なおかつ農業自体が業種として珍しいこともあり、法人においても今までの職歴や学歴などに関係なく採用されやすい傾向にあります。体を動かして決まった作業をこなしていく仕事が中心となるため、高度な知識や技術よりも、前向きな意欲や体力が重視されやすいのも特徴。また平均年齢60歳以上と、業界全体としての高齢化が進んでいることもあり、年齢が高めでも就職しやすい利点もあります。
健康的な生活をはじめられる
屋外での作業が中心となるため、基本的には早朝から日が沈む夕方までに、その日の仕事は終了となります。取り扱う農作物や農業形態にもよりますが、太陽の出ている明るい時間帯で作業するのが一般的です。顧客の要望や納期などにも左右されにくく、日中の農作業に合わせた生活リズムにできるため、規則正しい毎日を送りやすいのもメリット。安定した生活リズムで、健康的に過ごしやすい仕事といえます。
無料で新鮮な食材を入手できる可能性もある
農業法人に就職した場合には、勤務先にもよりますが、福利厚生として収穫した農作物の一部持ち帰りができるケースも多々見られます。このように獲れたての新鮮な食材をお得に入手しやすいのも、農業従事者ならではのメリットでしょう。もしくは自営業の農家になれば、自分自身の采配次第で、自給自足もできるでしょう。こうして自然の恵みを存分に享受できるのも、農業の大きな魅力です。
社会に役立つ実感を得ながら活躍できる
元々の国土が狭く、食料自給率も狭いとされる日本において、農家は人々の生活を支える大きな存在です。日々の暮らしに欠かせない食材を生み出す、社会になくてはならない仕事でもあり、世の中に貢献する一員としての確かな実感を得ながら充実して活躍できます。
自分のアイデアを活かしながらやりがいを持って仕事ができる
もし自営業で農業を営むのであれば、生産する農作物や販売方法など、自らのアイデアで経営戦略を立てていくこともできます。場合によっては、生産方法や売り出し方などの工夫次第では、自分にしか生み出せない農作物として商品化できる可能性も。新たなブランドとしてヒットさせられるチャンスもあります。自分の手で育て上げていくからこそ、幅広いポテンシャルのあるビジネスともいえるでしょう。
農家を目指す際に注意しておきたいデメリット
自然とともに働くことができる農業には、さまざまなメリットがありますが、特殊な業種だからこそなかなか簡単にはいかない部分もあります。特に新しく農業をはじめるうえで、気を付けておきたい注意点としては、次のようなものが挙げられます。
体力を消耗しやすい肉体労働が中心
基本的には屋外で体を動かす作業を続けていくため、身体的な負担が大きくなりやすい一面も。取り扱う農作物にもよりますが、春から夏・秋にかけて繁忙期を迎える場合が多く、厳しい暑さのなかでの肉体労働が求められます。体力を消耗しやすい働き方になるため、自分自身で十分に体調管理を意識しておくのも重要です。
独立就農に向けては高額なコストが必要
農業法人に就職する場合には、すでに勤務先で農作業ができる体制を整えているので、基本的に自己負担するものはありません。また親元就農の場合も、事業の承継元となる農家より資産も含めて引き継げるのが一般的です。一方で完全な自営業となる独立就農では、農地や必要な設備など、自分で用意していかなければなりません。また農業を営むための専門的なノウハウを習得する必要もあり、農家としての知識や技術を新たに学んでいくことになります。こうして農業をはじめるすべての準備を自分自身で進めることになるため、開業資金や学習代など、さまざまなコストとして高額な費用がかかる点には要注意です。
収益の安定化が難しい
農業は、天候や病害虫などの影響により、収益が大きく変わりやすい一面もあります。特に自営業では、こうし外的要因で生産量が左右されやすく、収益が安定しづらい部分も。なお農業法人に就職する場合には、比較的規模の大きい経営基盤を整えており、ある程度の収入面は保証されるのが一般的です。自営業では、こうした急な気候変動にも対応できるように、あらかじめ万全の設備を揃えて対策するなどの工夫も必要です。
農業を営むための専門的なノウハウが求められる
農作業では、さまざまな専門的な機材を使用する場面も多く、農家ならではのスキルが求められます。機材の使い方によっては、専用の運転免許が必要とされることも。また農業法人に就職する際には、ほとんどのケースでは勤務先で働きながら農家としての知識や技術を学べる体制がありますが、自営業となると自分で習得しなければなりません。特殊な業種だからこそ、しっかりと専門ノウハウを勉強していくことも重要です。
就職後のギャップ感から早期離職につながるリスクも
今までにまったく農業に関わってきた経験がないと、実際に就職してみたものの、「思っていた様子と違った」など大きなギャップを感じてしまう可能性も。例えば農業を営む土地では、都市部とは異なる密接なコミュニティになりやすく、独特の人間関係ができている場合も少なくありません。また人材の年齢層も比較的高いため、若手世代にとっては、世代間の違いを感じやすい部分も見られます。農業未経験からの転職を考える際には、一度アルバイトなどで農家としての体験をしてから、実際に働けそうか検討してみるのもおすすめです。
まとめ
農業は、人々の暮らしになくてはならない社会を支える事業ながら、業界全体として人手不足が大きな問題になっています。こうした背景からも政府として、新たに農業に従事したい人材を積極的に受け入れる制度も充実させており、未経験で農家を目指すチャンスは大いにあります。とはいえ新しくチャレンジするにあたっては、自分に適した職業なのか十分に調べたうえで、農家ならではの心がまえをしておくことも重要です。未経験から農業への転職をお考えの際には、ぜひ本記事も参考に、どう農家を目指すべきなのか検討してみてください。